第2章 リラの旅じたく
「僕のところには、色んな動物たちが眠ってる。生きている時にとても強い想いを遺して死んだ子たちだよ。 そんな彼らを僕は護ってるわけだけど、リラ。 その子たちの想いを解放する手伝いをする事は出来るかな?」
「解放、ですか?」
「うん、彼らの心と交わるってことかな。……体使ったら手っ取り早いかも知れないけど、リラじゃあねえ」
何だか私、最後の方、さり気なく失礼な事を言われてるような。
「心と交わる……つまり、仲良くなるってことですか?」
「そうだね。 少なくとも『視る』事が出来る位は」
「み……る?」
何をだろうか。
キルス様は、所々難しい表現を使う。
取り敢えず、友だちになればいいのだと解釈した。
でも、その動物がとても大きい犬だったりライオンだったりしたら? 挨拶のあとに握手しようとしたら、噛まれて私の手が無くなるとかじゃ、洒落にならない。
「ああ、大丈夫。向こうでは皆ヒトの形で暮らしてるし、キミの身体も特徴は残るけど変わるから、人型の熊に襲われるなんて事もない」
『向こう』って、人間からよく聞く、いわゆる『天国』の様なものだろうか。
「でも、長いことそれ出来た人はいないって」
「うん、彼等の中には、強烈に恨みを持って亡くなった子もいるから、危険で巻き込まれる事も多くて、実は無事に帰ってくる子が、とても少ないんだ」
「…………」
私は黙ってしまった。
それって、向こうで死んだら私もここで、居なくなっちゃうってこと?
「そうだね。こちらと向こうは繋がっているからね」
キルス様が嘘を付いているとは思えない。
でも、亡くなった動物たちの天国があるなんて、やはり突拍子も無い話だと思ってしまう。
「信用出来ないならちょっと試してみる?」
彼は私に子供らしい紅葉みたいな小さな手を伸ばすと、指先で私の額の辺りに触れた。
温かなふわふわしたものに包まれたかと思うと、私の視界の中のキルス様が、さっき私が見たように七色に染まってゆらりと歪む。
次に視線を落とすと見慣れないものが目に入った。
成弥みたいな肌色の、指の長い人間の手。
わきわきと指を動かしてみると、私の意志に従い素直に動く。