第7章 リラの療養※
しばらくの後、熱も引いてほぼ通常通りの食事が出来るようになった。
いつもの様にルカさんが出かけた後ベッドから出て軽く身体を動かしてみる。
「んー……なんか体が重いな。 少しは運動しないと」
関節や筋肉の動きがいつもみたいにスムーズじゃない。
動物とのハーフみたいなもの、というからにはおそらく私には人間よりもたくさん運動が必要なんだろう。
明るい陽が射す外に目をやり、ついでに窓を開けて外を見てみる。
どうやらここは繁華街の中の宿泊先のようだ。
それにしてはいかがわしくもさびれた様子もなく、どちらかというと可愛らしい印象の、こじんまりとした宿。
何しろ、今日はとても良いお天気で頬を撫でる風が心地良い。
白く筋を描く雲が絹の束になって空にたなびいていた。
こんな気分は久しぶりだった。
ふと思いつきクローゼットの中を開けた。
彼の服やなにかを物色してみる。
柔らかそうな素材のシャツを拝借した。長すぎる袖はくるくると折って。
軽装に着替えた私はドアから顔を出し辺りの様子を伺う。
廊下と部屋からは何も聞こえない。
よし、誰も居ないようだ。
そして階下に降りて、出入り口にある無人らしい、その宿のフロントを通り過ぎようと、そぉっと歩き出した時。
リリリリリリリリ!!!!!!!!!!!!
「ひゃぁっ!???」
突然の大きなベルの音に驚いて飛び上がり、わたわたと慌てているうちに俊足の速さで駆け付け、横滑りに角から現れた主人に当然の様に見付かってしまった。
「もー、脱走なんて止めてくださいよ。愛するリラさんに何かあったら、ルカさんに叱られるのは私なんですから!」
「脱走……」
そんな、人をなんかの犯罪者みたいに……
そして結局、元の部屋に連れ戻され、苦々しい表情で椅子に腰掛けている。
「この辺りは治安が良くないんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、娼館やそういう類いの宿が多いんです。 まあうちに泊まるお客さんは商人等が殆どですが。 だから席を外している時も、ああやって防犯用のベルを設置している訳です」
閉め切った部屋で過ごしてたからか全然分からなかった。
話には聞いたことはあるけれどこちらにもそういう所はあるらしい。
とにかく、大人しくしていて下さいよ!
主人が私に釘をさして部屋を出て行った。