第6章 三人目 無頼漢リンク※
こちらより二十センチは上背がある大男を一瞬でぶちのめしたとあって、騒ぎに集まって周りの男たちも引いた様子で後ずさる。
「俺に構うな。 次は口を利けなくしてやる」
汚いものでも触ったというように殴った手をブラブラさせながら、俺は橙色に染まる夕焼けを眺めながら家路を歩いた。
円盤状の夕陽が震えながら山あいに溶けていく。
まだ母親が生きていた頃に、家族でこんな景色を眺めていたのを思い出した。
あの時の俺には何の憂いもなかった。
「…………」
職場を変えた方がいいかもな。
あの手の連中がしつこい事は経験で知っていた。
留守中に狙われたらあの女なんか一溜りもないだろう。
しかしふと思った。
いや、なんであんな女の心配なんてしなきゃいけないんだ?
「どうでもいいだろ」
俺は独りごちて首を振った。
「リンクさん、お帰りなさい」
家の引き戸を開けると明かりのついた中から飯の匂いがした。
「今日はお仕事だって聞いてましたから、食事用意しておきました。 まだ私、下手くそなんですけど。 あ、お風呂も入ってますよ」
その何かの汁みたいなものは妙な酸味以外は殆ど味が無く、辛うじて具の肉に塩をかけてパンと一緒に流し込むと何とか食えた。
女の傷だらけの指を見るに、地味な嫌がらせでは無いらしい。
俺は苦笑しつつも結局それを全部平らげ風呂から上がると女を呼び止めた。
「待てよ」
「はい?」
女は首を傾げて俺を見る。
そうやって俺を信用するんじゃない。
俺はそんな人間じゃない。
「最初に来た時の男はお前の伴侶か恋人なのか?」
「え?いいえ」
「……? 家族か何かか?」
「そうですね、こちらの……家族と似ています。私は人の世界に好きな人がいますから」
決まった相手という訳ではないらしい。
「じゃあ俺が遠慮する必要も無いって事か」
「あ、……痛ッ」
女の頭の上に持ち上げた両手首を捻ると、そいつは苦痛で自ら壁に押し付けられる格好になる。
この女は人間になりたくてここに居るんだろう。
だが俺は優しいやり方なんて知らない。