第6章 三人目 無頼漢リンク※
丁度その日は日雇いの仕事が入っていて、朝早く家を出ようとした。
その直前に女に呼び止められた。
「……なんだ」
まだ女の目が腫れている。
その手には布の袋に入った…何やら香ばしい、干した植物の匂いがするものが握られていた。
「昨晩はお酒をたくさん飲まれていたようでしたので。これは胃を休めるハーブです。このままでもお茶としてでも飲んでみてください」
「……おまえ、頭おかしいのか?」
「え?」
俺は呆れた。
あんな事されて泣かされた相手に何やってんだ?
お人好しなんてレベルじゃない。
真性のドMなのか。
朝っぱらからそんなどうでもいい事を考えていると、いつも落胆した時の様に女の瞳の緑色が濃くなった。
「面倒くせえ」
俺はその袋をひったくる様に受け取ると乱暴にポケットに突っ込んだ。
その女の反応を見る前に背を向ける。
行ってらっしゃい、という声が後ろから追いかけてきた。
今日は漁に出る事もなく軽作業で仕事が終わった。
元猫の割にガタイのいい俺には丁度いい運動になる。
その帰り際に、仕事仲間数人に声を掛けられて立ち止まった。
「リンク、軽くいくか」
酒の誘いだったが外を見るとまだ明るい。
何となく気乗りがしなく、その誘いを断わった。
「何だ、付き合い悪いじゃねえか。なんでもお前、最近いい女捕まえたらしいな?」
あの女のことか?
「俺たちに紹介してくれないなんて冷たいなあ」
猪族のその男が下卑た表情で話しかけて来た。
下衆め。
俺も他人のことを言えた柄じゃないが、そいつらは道に外れた事を平気でする奴らだった。
まだ小さな雌を攫って輪姦すと聞いている。
「お前らには関係無い」
俺は素っ気なく言い捨て元来た道に踵を返した。
「おい、待てよ」
それが俺の肩を掴みに掛かる気配を感じ、振り向きざまその男のこめかみ辺りを体重を乗せた拳で振り抜く。
そいつはギャッという叫び声とともに吹っ飛んで無様に尻もちをついた。