第6章 黒い甘露【イケメン戦国】
意識を取り戻した私は全身で感じる違和感に自分の在り様を確認する。
私は全裸で床柱に背を預ける様に立った儘拘束されていた。
両手は床柱を挟んで背後で括られ、両脚も閉じた儘足首には確りと絹紐が巻かれている。
何よりも床の間が有るという事は、此処は私が囚われていた座敷牢では無いのだと気付かされ……
其の理由は目の前の光景に寄って判明した。
其処に居たのは信玄と、もう一人。
色素の薄い左右色違いの瞳が私へと冷たい視線を向けている。
そして二人共が手酌で盃を傾けていた。
「ああ……
気が付いた様だな。
苦しくはないかい?
もう口の詰め物もしていないから
呼吸も楽になっただろう?」
私をこんな状態にしておいて、然も何でも無い様に語り掛けて来る信玄に畏怖を感じる。
「君の着ていた物は汚れて仕舞ったからね。
脱がせて君の身体も清めた迄は良かったが
此処には女性に着せる物が無くてなー。
済まないね。
寒くは無いかい?」
まるで仕方無く私を全裸で放置しているのだと言わんばかりの物言いだ。
………そんな訳無い癖に。
苛立ちを募らせている私は、ふと自分の股間に更なる違和感を感じ視線を落として見れば、其所には太い荒縄が通されていて其の先は信玄が握っている。
其れが何を意味するのか………
私の全身から血の気が引いていった。
「どうだ、謙信。
美しい女性の裸体を眺めながら飲む酒も乙だろ?」
謙信……
という事は、私を冷ややかに見遣る此の男が……
越後の龍、上杉謙信。
「全く……
お前の悪趣味にも程が有る。」
嫌悪感丸出しで吐き捨てる謙信に、信玄は困った様に微笑んだ。
「まあ、そう言うな。
此れは謙信に取っての梅干しと同じ。
俺には何よりの酒の肴だ。
其れに謙信に任せれば、直ぐに彼女を斬って仕舞うだろ?」
「………ふん。」
謙信は図星を突かれたという様子で視線を逸らす。
確かに私を最初に捕らえたのが軍神と揶揄される上杉謙信であれば、私の命は此所迄永らえてはいなかった筈だ。
然し、私は此の先……
命を永らえた事を後悔する程の恥辱を与えられる事になった。