第7章 三日月の夜に。明けた朝に。
___昨晩…
信長様に突然抱きしめられた私は、何の抵抗も出来ぬまましばらくあの場で抱かれていた。
お互いの心音が交差する距離でのままで。
信長様がああした理由は分からないけど、
自分に殴りかかった女を抱きしめるなんて・・・
きっと信長様も…酔っていたのだろう。
もしかしたら夜伽なんて言いだしたのも、酔っていたせいかもせしれない。
しばらく抱かれたあと、
「ゆるりと休め。」
と一言だけ言って、体が離れていった。
暖かい夜だったのに…
信長様と触れ合っていた部分が急に冷えたような気がした。
不思議な感情を植えつけられたまま…
私は寝返りばかり打つ夜を過ごし、朝を迎えたのだった____
いつものように上座に座られた信長様は、昨日の事など何もなかったかのように軍議に集中しているようだった。
___軍議は城下の治安や、信長様が治めている配下諸国について、新しい施設の建設や敵国の動向など…内容は多岐に渡る。
それぞれの武将が報告したり、質問したり。
私がこの場にいても何か出来ることはない。
それどころか、話している内容すらよくわからない。
気もそぞろに軍議を聞いていると、突然、信長様から
声がかかった。
「莉乃よ、体調は良くなったのか」
「は、はい。
昨日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
信長様、そしてみんなの方にも頭を下げる。
武将たちの目は暖かい。
背筋を伸ばし、息を吸う。
「あの… 私…
昨日は、信長様が酔って気が緩んだところにまた本能寺行きの件をお願いすれば、許してもらえるんじゃないかと思っていました。
それも上手くいかなくて… それで…
このお城で仕えると言って油断させて、隙を突いて出ていけばいいか、って…
でも、、、、
私、信長様や皆さんに正面からちゃんと送り出してもらえるように、
笑顔で見送ってもらえるように、、、
が、頑張りますので、ここに置いてくださいっ。」
そういって再度頭を下げる。
私は逃げない。
走ったわけでもないのに息が荒くなってしまって、肩で呼吸する。
静まり返る広間。
だれも何も言ってくれない…
軽蔑されちゃってるのかな………