第1章 永遠の始まり(信長side)
____誰だ、 俺を呼ぶのは。
手放しそうになる意識を、渾身の精神力でつなぎ止める。
今はまだ、だめだ。
天下統一を成し遂げておらん。
だめだ、まだ逝けぬ。
実兄から放たれた刺客を閨(ねや)で返り討ちにしたあの晩から、己の命はいつ散るとも知れず。
今まで、何千 何万と奪ってきた命、
遂ぞ地獄に呼ばれたか、と観念しかけた、その時だった。
「・・・・・・ですか!?!?」
遠くから声がする。
「あのっっ、大丈夫ですか!?!?」
姿は見えずとも、どこか懐かしいその声、
「・・・っく、 そんなに慌てずとも聞こえておる」
誰かに上半身を支えられたと感じるやいなや、
花のような優しい香りが鼻をくすぐる。
「ああ、意識が戻ったんですね!よかった・・・
起きて!!
ここは危険です、すぐに出ましょう!!」
うっすらと目を開けると、そこは見慣れた本能寺の内殿。
あちらこちらに火の粉が舞い、
むせ返るような灼熱が、容赦ない現実を引き連れてきた。
・・・・・・そうか、不覚を取られたか。
意識を失う前の記憶が蘇る。
やけに必死に呼びかけるその声の先に目を向けると、
お、おんな!!??
しかも奇っ怪ななりをし、顔は煤だらけ。
長い髪は乱れている。
俺をじっと見つめるその瞳は抜けるように澄んでいて、
真剣すぎるその強い眼差しに、返す言葉が出ない。
触れたい
乱れた髪がかかるその頬に手を伸ばそうとした時、
腕に傷を負っているのに気づく。
「くっっ・・・」
こんな時にうつけか、俺は。
そんなふうにぼんやりと思った瞬間、
体を支える手に力が入り、立たされた。
「出血してる、急ぎましょう!」
添えられる手のひらが暖かい。
「貴様は誰だ」
しゃがれる声でそう尋ねると
「あっ、
私は水崎莉乃 と言います。
きっと今頃、救急車も消防車もこちらに向かってると思います、
急いでここを出ましょう!」
「……は?
貴様、頭でも打ったか。」