第9章 演習
一度互いに距離を取り、静寂が訪れる。残は27発。投げナイフは残り19本。うーん。近接戦闘になると力負けしている分、圧倒的に不利。というか、その時点で負けが確定だ。
「ああ。何だろう。何て言ったらいいんだろう?」
「あ?」
「すっごく楽しい!!」
一気に間合いを詰めつつナイフを投擲。同時に二発発砲。ナイフの柄に銃弾を当て、ナイフの速度を上げる。すれ違いざまにナイフで刺突を繰り出し、三つの攻撃が同時に着弾するよう仕向ける。
それを立体機動で強引に回避されたが、構わずナイフを四本投げる。もちろん当たるとは思っていない。リヴァイ兵士長を追いかけながら弾を込め、アンカーが回収される瞬間に五発撃ちこむ。それでも、木を利用して身体能力のみで回避されるから面白い。
弾を込め直しつつなおも接近。攻撃は最大の防御。
しかし、向こうも死角を狙って突進してくる。攻撃を銃身で受け流しナイフで刺突を繰り出すが、これも刃で弾かれた。
蹴りが飛んでくるのを後ろに立体機動で急速回避。しつつ銃を投げ捨てる。それを隠しておいた長銃で打ち抜き爆破。その煙を利用してナイフを一本だけ投げ、そのまま体ごと突進する。力では勝てないが、一瞬の隙さえあればナイフを掠める事は可能。
ああああああっ!! 当たれええええっ!!
刃物が擦れる音が響く。ナイフの切っ先が喉元を捉えていた。が、同時に私の首にも刃が当てられていた。
「そこまで!」
ハンジさんの声が響くまで、ずいぶん長くそうしていた気がする。でも、いざ動こうとしても動けなかった。私の腰に、リヴァイ兵士長の腕が回されていた。狭い木の枝の上で、私が落ちないように気を遣ってくれたのかもしれないが、段々恥ずかしくなってきた。
「あの……そろそろ離してもらえますか?」
「それは出来ねえ相談だ」
「何故ですか?」
腕の力が強まり、私の耳元で彼は呟いた。
“俺も久々に楽しかった。礼を言う”
それだけ言うと、彼は私を抱えたまま地上に降りた。ハンジさんが近寄ってくる。勝負は引き分け。結局私の攻撃は当たらなかった。でも、彼の本気の動きを久々に見たと言われたら、嬉しくないわけもなく。なんか、恥ずかしくてうつむくことしかできなかった。