第8章 ★鳥籠の鳥★
コーヒーの香りがする。最近嗅いでいなかった香り。あぁ、夢か。夢ならば、甘えてもいいのかな。
「とーらーうーてー……ぎゅーしてー……一緒に寝よー?」
「悪いがそれは出来ない相談だ」
「んー? また私の知らない人が来たのー? 人が……え?」
起き上がろうとしたら、体が動かなかった。その違和感に目を開けると、場乗りになったエルヴィン団長がいた。急速に意識が戻る。
見知らぬ天井。手首に付けられた枷。足首も重い。エルヴィン団長によって抑え込まれた体はもちろん動かせない。何とか動こうとするが、それ以上の力で押さえつけられビクともしない。音が響く空間。レンガ造りの天井。天井から垂れ下がった拘束具の数々。
最悪だ。目が覚めたら地下牢で拘束されてました。なんて、笑い話にもならない。いや、目の前のこの男なら笑い話にもするだろう。
コーヒーに自白剤と催淫剤が含まれていた事は何となく思い出せる。そのあと何故意識が無い? 睡眠薬でも飲まされた? 2杯目の口移しで飲まされたコーヒーがそれか? でも、これでも一応睡眠薬の耐性はあるはず。過労と緊張で効果が出た? あれくらいどれくらいの時が経った?
そもそもこの状況はどうする?
「君は寝惚けると甘えん坊になるのか」
「ガッツリ聞かれちゃいましたね。それで私は、エレンと同じ容疑でここに繋がれたという認識でよろしいのでしょうか?」
「いや。君の事は私とリヴァイだけの内密にしている。これはただの趣味だよ」
「あー……素敵なご趣味デスネ。本音は私をレックスの餌及び中央第一憲兵団のスパイの為手駒にしておきたい、といった所でしょうか? その胡散臭い営業スマイルを辞めたらどうですか? エルヴィン・スミス団長」
「これは手厳しいな」
ダメだ。話していてもいい案は浮かばない。外にはリヴァイ兵士長が見張りをしていて私の仲間は入れないどころか下手すれば情報を漏らおされるだけだ。服を着ていても武器として持ってきておいたナイフ類は全て抜かれている。これはもうレックスと同じパターンになってしまうのでは? もう薬は嫌だなぁ。ここ最近抜けては与えられてを繰り返している気がする。
髪に付けておいた針金も無くなってるっぽいので、ピッキングで枷を外すことも出来そうに無い。打つ手なしかなぁ。