第5章 初陣:温もり
「着替えぐらい頂戴よ」
「ほらよ」
上から着替えが降ってくる。全く、なんでちゃっかり持っているのやら。
砲弾の音が鳴り響く。きっと、エレンが処刑されそうになっているのだろう。何となく分かってしまう。同じように巨人のお腹から出てきた私には、何も起きないと言うのに。
「小心者が吠えてやがるな」
「そうみたいね」
ケニーに見られることなど頭にも無く、何事もないように着替えをする。今日は何回着替えただろうか?
「……トラウテを呼んでやろうか?」
「え、何で? トラウテからほかの任務でもあるの?」
「まだしばらくは会えねえからな」
なんで、トラウテの名前が出てくるの。私は、私の母親は……。いや、止めよう。考えても仕方ない。会ってはいけない。そんな気がする。
「ううん、会わないけど、1つだけ欲しいのがある」
「なんだ?」
「銃を頂戴。得意な武器も持っていないといけない気がする」
「ほらよ」
服と同じように降ってきた。それは、トラウテがいつも使っている小型の銃だった。弾を確認すれば全弾入っている。後からマガジンが2つ降ってきた。しばらくは、これだけでやれ、という事らしい。それでも、これで、レックス対策も出来た。あいつが生きているかは分からないけれど、おそらく生きている。さて、と。これからどう動くべきか。
「生きて戻って来いよ」
ふわっと風が吹く。そして、頭に手の感触が一瞬だけ当たる。気配はもう無い。生きないとね。兄弟子にも会ってみたいし、精鋭と言われる調査兵団の事も気になる。生きてまた皆に会う。そして、トラウテに会えたらちゃんと聞こう。いつになるか分からないけど、きっと答えてくれる。生きて生きて、生き抜く。私は、空へと手を伸ばした。