第9章 【美しいもの】FGO/マーリン夢
マーリンは人間の世界は好きだけど、個人個人としては・・あまり興味がないらしい。
書斎で、カタカタとキーボードを走らせている私は、サーバント特性の報告書を書いている。一人で集中して報告書を書きたいときは、鍵付きのこの部屋で一人籠っていることが多い。マイルームだと、サーヴァントのみんなだったり、立香ちゃんだったりとわりと賑やかで仕事に手が付かなかったりするため、適度にこの場所で作業するようにしている。それに此処はドクターにお願いして、私が鍵を管理して、好きに使っていいようにしてもらっている。そしてもっというと、マイルームより、此処は私のプライベート空間だ。普通のサーヴァントでは超えられない強固な結界が張られている。私はこう見えても魔術師の中では良く名が通る有名な一家の娘であった。生まれつきの能力も申し分なかった、らしい。書斎に張られている結界を破ることができるのは、手練れの
キャスターくらいだと思う、たぶん。破られたことがないので、分からないが、さすがに英霊レベルのキャスターには勝てない。
端末から眼をちらりと横にうつせば、懐かしい両親と私の映った小さな写真が立てかけられている。シンプルな黒の額縁に収められた一枚の写真。今はこれだけが私に家族がいたという証だ。そっと手に取り、その写真をじっと眺めた。着物に身を包む黒髪の凛々しい女性と、パキッとスーツを身に纏う黒髪の男性。どちらも優しい眼をして、微笑んでいる。その二人の間には、無邪気にニカッと歯を見せて笑っている、花柄のフリルのワンピースを着た幼い黒髪の少女がいた。幸せそうなどこにでもある、家族写真。もう、二度と手に入らない、私の帰る場所。
じわっと目頭が熱くなった瞬間、ふわっと花の香りが広がった。