第4章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 中編 【R18】
「今夜は牛肉が手に入りそうなんだよ、正一と一緒にお邪魔してもいいかな?」
行冥君の診察に来た先生が言った。
「まぁ、もちろんですよ。正一君も久しぶりだわ」
私が返事をしていると、行冥君の服を直す手が、ピタリと止まった。
「正一は私の甥っ子でね、家で預かっているんだよ」
「そうですか」
ポツリと呟いた行冥君に、なんとなく違和感を感じたけれどその場は特に気にせず、朝食の支度にかかった。
行冥君は、毎朝、日が上る前には起きて、座禅を組みお経を唱えている。
そしてその後、鍛練をしていた。
そう。彼の身体は、かなり回復してきていた。
「行冥君、朝御飯にしましょう」
私はそう言うといつも そっと彼の手をとり、手拭いを渡す。
一度、溢れる汗を拭こうとしたら、行冥君……慌てて、顔を真っ赤にして ここに来て初めて転びそうになってた。
可笑しかったなぁ……
「何か思い出しているのですか?」
「え?」
「笑い声が聴こえたので」
「やだ?本当?声に出てたのかしら……ふふ」
「ほら、笑っておられる」
「そうね。初めて行冥君に手拭いを渡した日を思い出していたの」
そう言うと、あの日のように彼は顔を真っ赤にした。
「ふふ」
私がまた笑う。すると
「私の事を想い、京子さんが愉快な気持ちになるのは 何故だか……その……喜びを感じます」
「……ありがとう」
行冥君の言葉に思わずお礼を言った。
そんな風に言ってくれる行冥君が……
私には愛らしかった。