第7章 愛する人【愈史郎】
俺が一人、山の中に棲まうようになって気付いたのは……
俺には絵の才があった事だ。
珠世様の事を思い出しながら、ひたすら筆を走らせる。
常に一緒に居たんだ
片時も離れたくなかった
あの時と同じ気持ちで
そうだ俺は 薬の研究をする珠世様も、物思いに耽る珠世様も、時折、少女のような笑顔を見せる珠世様も、全てを愛していたんだ。
何一つ俺の物にはならない。わかっている。
珠世様の心はいつもご家族の元にあったからな。
それでも……
そんな事を考えていたら、ふと気付いた。
常に俺の側に居た京子
少しでも俺から離れるのを嫌がった京子
正直、鬱陶しいと感じる日もあった。
だが毎夜、共に眠る温もりとあの安心感は、得も言われぬ物があった……
…………
もしかして珠世様も俺の事を同じ様に思っていたのだろうか?
家族としての愛情を……俺にも……
まぁ今となっては何も解らないし 答もない……
俺は今日も筆を走らせる
もちろん、それにも答はない
だが それでいい
俺が覚えている事が全てなんだ
そうですよね、珠世様……
そうだよな、京子……
俺は心の中で問いかける。
そして時折、引き出しの奥の小瓶を気にしながら、だけど……
いつかその問いに答が出た時
きっと俺は、自ら太陽の下に出るだろう。
愛する人を胸に抱いて ――――――
終