第8章 心の隙間
映画のヒロイン抜擢から間も無くして、映画の撮影は開始された。
元々私は急遽決まった代役で、その他の準備は着々と進められていた為、出演者との顔合わせ、衣装合わせ、制作発表などが短期間の内に行われた。
「セナーーー!そこはそうじゃねーだろう!」
現場には、今日も監督のげきが飛ぶ。
私以外はみなベテラン俳優ばかりで、監督のげきが飛ぶのも私だけ。
義元さんいわく、監督にも様々なタイプがあるらしく、この映画の監督は、口悪く叫ぶタイプらしい。
「セナてめぇ、下手すぎんだよ!」から始まり、
「てめぇ、不細工なんだよ!いいかぁ、この役の女の子はなぁ、透き通るような美少女なんだよ!」となり、
「てめぇ、色が黒すぎんだよ!龍がハレーション起こしちまうだろがー!」と散々な言われようだ。
けれど、6年間陸上部員だった体育会系の私には、ある意味懐かしい空間だった。
優しい先輩たちと口うるさい監督。
初めての演技は本当に大変で、もっと艶を出せとか心で演じろと言われても全然ピンと来なかったけど、楽しかった。
だけど、疲労感は半端ない。
「はぁ〜やっと終わった〜」
8テイク目でやっとオッケーが出て、お昼休憩に入った。
「お疲れ様。はい、セナのお弁当」
完全燃焼で机に突っ伏した私の横に、義元さんがお弁当を置いてくれた。
「わ〜義元さん。ありがとうございます。一番迷惑かけてるのにお弁当まで.......優しい」
「初めてなんだから当たり前だよ。よくやってるってみんな褒めてたよ」
「うぅっ、そう言ってもらえるとお昼からも頑張れます。あ、飲み物取ってきますね。義元さんはお茶でいいですか?」
気を取り直して立ち上がろうとすると、義元さんがそれを手で止めた。
「いいよ。俺が行く。コーヒー飲みたくなったから淹れて来る。セナもいる?」
「ええっと............じゃあ、お言葉に甘えて、お願いします」
「了解。ラテ砂糖なしだったよね」
クスッと笑うと義元さんはコーヒーメーカーへと行き、コーヒーとラテを持って戻ってきた。