第4章 ケイティの部屋
あとは、セナに話をしなくては。
純粋無垢なあの子に、これを言うのは辛いわね。
でも、私はセナなら信長を救ってくれると思えてならない。
私が知る限り、セナは信長が初めて興味を持った子だ。
彼女の為に宣材写真の服や靴を用意したり、光秀ちゃんに頼んでメイク用品を贈ったり。そして、愛情はないと本人は言っていたけれど、付き合うと言った初めての子。
性欲旺盛な年頃の彼には、いつも女が群がった。
芸能界で成功し、社長としてこの会社を軌道に乗せる頃には、織田信長ブランド欲しさに、ありとあらゆる手段で女が寄ってきた。
だから彼に、様々な避妊方法を教えた。
けれど、彼は徹底してコンドームを使って避妊をしてきたはずだ。「セックスは気持ちいいが他人の中に直に入るのは気持ち悪い」と言っていた。なのになぜセナにはピルを飲むように言えと言うのか........
セナには悪いけど、私は信長ちゃんを幸せにしてあげたい。
それを、セナに託そうとする私もまた、悪魔なのかもしれない。
ピンホーンと、セナの部屋のインターホンを押すと、セナが無邪気な笑顔でドアを開ける。
「話があるの。入ってもいいかしら?」
まるで判決を下すように、彼女に婦人科へ行って低容量ピルを処方して貰うように勧めた。
まだ、何も知らない彼女はただ私の話に耳を傾け「分かりました」と気丈に頷いた。
「セナアンタ.............」
それでいいの?やめなさい。と言いたかったけれど、飲み込んだ。
セナの担当者としての情はあるけど、信長のセナへの執着は愛故だと信じたい私は、セナの信長への気持ちを利用するしかない。
「私はアンタの味方よ。辛い時は言いなさい。いいわね」
私は弁護士。
嘘も方便。勝つ為ならどんな嘘でもつく。
でも、こんなに辛い嘘をついたのは初めてだった。
セナは、ここで漸く涙を流して、コクンと頷いた。
二人の付き合いが吉と出るか凶と出るか、願わくば二人とも幸せになりますように。
あぁ、心配し過ぎて私の髭は今日も濃くなるばかりだわ。