第32章 舶来
毛利元就の行動は早かった。
あの舞台挨拶の次の日にはCMの内定の連絡が織田プロにあり、3日後には織田プロにアポ無し訪問で正式決定をわざわざ伝えに来て私たちを驚かせた。
そして7日後の今日…
「わぁっ!」
私はそのCM撮影のため、南の島へと来ていた。
決定から撮影までをこんな短期間で進めるなど異例中の異例で、毛利元就がどれほどこの世界で力を持っているかが分かるのだと、ケイティは言っていた。
「セナ 日傘っ!」
早朝の港から登る朝日に感動する私に、ケイティが慌てて日傘を持って来る。
「ありがとう。まだそんなに日差しもないし大丈夫じゃない?」
「バカね、南国の紫外線を舐めちゃダメよ!あんたはそうじゃなくても地黒なんだから」
「はーい」
陸上から離れれば自然と白くなると思っていた私の肌は、この2年で少しは白くなったけれど、やはり吸収しやすく、しかも人よりも焼けるスピードが速いと分かった。
「あと、これを羽織って。それじゃあ寒いでしょ!」
ケイティはそう言って、上着を一枚肩にかけてくれた。
「あ、うん。ありがとう。ここは常夏だと思ってたけど、この季節は結構肌寒いんだね」
「そうね、これでも20℃はあるらしいから、東京よりは全然暖かいけど、半袖はキツいわね」
「今から船で移動でしょ?」
「そうよ。ただ船と言っても小さな船だから、吹きっさらしで寒いかもよ。もう一枚着ておく?」
「うーん、そうしようかな。唇青くして鳥肌出しながらの撮影なんてアウトだしね。でも何分くらい乗るのかなぁ」
「約30分だ」
ケイティに聞いたはずの答えは、自分の背中から聞こえて来た。
「あ、毛利さん、おはようございます。今日は宜しくお願いします」
「よお、良く眠れたみたいだな」
こんなにも南国の似合うイケメンがいるだろうかと思うほど、その浅黒い肌と碧い海がマッチしている毛利さんは、ニッと笑って私とケイティに近づいて来た。
「ちょっと元就ちゃん、そこでストップ!」
そしてケイティは、それ以上は近づくなと手で静止を促した。
「…はぁ、なんだよ、朝っぱらからうるせぇな。んな警戒しなくても、とって食やしねぇよ」
一旦は歩みを止めたものの、面倒臭そうに頭をポリポリとかくと、毛利さんはあっという間に私との距離を詰めた。