第31章 擬似遠距離恋愛
「大好きだよ」
まるで初めてキスをする様な感覚になり、目を閉じてスマホの画面に口づけた。
「ふっ、上出来だ」
ちゅっと、信長のリップ音が耳に届く。
…不思議だ。
本当に触れ合ってるわけじゃないのに、唇が温かい。
唇の触れ合う感覚があるわけじゃないのに、画面から離れたタイミングまで同じで、そんな事までが嬉しくて、私たちは顔を見合わせて笑った。
「セナ 、今回は貴様に大きな土産を用意している。楽しみに待ってろ」
「大きなお土産?えー、何だろう?楽しみにしてるね」
クリスマスに向けて、大きなもみの木かな?とか、いつも私を子供扱いするから、大きなテディベアかな?と、その時の私はわくわくと大きなお土産に想像を膨らませた。
信長の言う大きなお土産は、田舎育ちで庶民の私には想像もつかない物なんだけど、それを知る前に、私たちはそのお土産と同じくらい大きな試練を乗り越えなければならなくなるなんて、この時の私は知らない。
「じゃあ、おやすみなさい」
遠距離恋愛は寂しいけど、たまには良いかな?なんて思いながら画面越しのキスの余韻に浸り、私はご機嫌でスマホを閉じた。
一方、信長はと言うと…
「ふっ、こんな画面に口づけて嬉しいなど、俺も大概だな…」
スマホを睨みながら一人ごちて、苦笑いしていたらしい…