第31章 擬似遠距離恋愛
「ふぅ〜、厄介な奴が現れたわね」
映画館を逃げる様に出て来た私とケイティは、すぐに車に乗り込んでパーキングから車を走らせた。
「あんた大丈夫?変な事されてない?あと、服とかカバンの中に変な機器入れられてないかしっかり確認して」
「は、はいっ」
ドラマじゃあるまいし、そんな訳はないと思いながらも、私は一応服の上から体を隈なく触って何か付けられていないかを確認し、その次にカバンの中を全て出して盗聴器などが入れられていないかを確認した。
「……一応調べたけど大丈夫そうだよ?」
「そう、なら良かったわ」
「でもあの人…顕如さんって、その…あっち系のコワイ人なの?」
フリーライターとか言ってたけど!絶対怖い世界に身を置く方にしか見えなかったけど…
「あははっ!それはないから安心して。顕如はああ見えても寺の息子で彼自身も元僧侶だから」
ケイティは私の反応に声を上げて笑った。
「えぇっ!あっ、あんな迫力ある人がお坊さんなの!?」
「そうよ、信じられないでしょ?まあ地元ではかなり信者もいたみたいよ。あの通りイケメンだしね」
イケメンだと信者が増えるのか?という疑問は口に出さないでおこう。
「まぁ確かに、整った顔してた様な……あっ、イケメンで思い出した。そういえば今日、こう言う人に会ったよ」
イケメンというワードで毛利さんに会ったことを思い出し、運転するケイティの手にもらった名刺を渡した。
「誰に会ったって?」
運転中のケイティは名刺を見れない様だ。
「舶来の毛利さんって人」
だから口頭で伝えると、
「はぁっ!舶来の毛利って、あの男に会ったの!?いつ、どこで!」
ケイティは叫びにも似た様な声を上げた。
「えっと…舞台挨拶の会場に早く着き過ぎて、時間潰すために喫茶店に入ったら、そこに相席で座って来て…それで……」
「アイツ…初めから今日の日を狙ってたわね…。はぁ、今日は厄日ね。毛利に顕如って、イケメンだけど二大会いたくない奴らだわ」
ケイティにしては珍しく、忌々しそうにチッと舌打ちをして親指の爪を噛んだ。