第18章 ケイティの部屋②
何度も言うが、信長ちゃんは常に冷静沈着で冷酷非情な男だ。この手のスクープ写真やスキャンダルに対し、その内容が真実の場合、彼は救いの手は一切差し伸べない。それにより、会社に何億の損失を生もうと、彼には関係ない。スクープ写真やスキャンダルは、彼にとっては裏切り行為にあたり、裏切りは絶対に許されない。
過去にそれで何人ものタレントがこの芸能界から姿を消した。
そのはずなのに、セナのスクープ写真に彼はお金を払って揉み消すと言い、提示されたままの言い値を払った。
信長ちゃんのセナへの気持ちが本物なんだと私が確信した日で、また信長ちゃんの気持ちが不本意にも裏切られた日でもあった。
その後の二人の間に何があったのか詳しくは知らないけど、信長ちゃんはセナが失踪するほどに彼女を追い詰めた。相当な事を彼女にしたであろう事は火を見るより明らかだ。(実際彼女はとても痩せたしそれはまだ戻っていない)
けれどセナが失踪した日、私は彼が焦った姿を初めて見た。
彼の父親が他界した時も、母親が彼を捨てる様に海外に移住した時も、彼はその表情を崩さなかったけど、セナの書き残した一枚のルーズリーフを手にして見た時の信長ちゃんの、焦りを滲ませ強張っていく顔は忘れる事が出来ない。
彼女が書き残したあのルーズリーフは、今でも社長室のデスクの引き出しの中に入れてあるのを私は知っている。
あの事がきっかけで、彼は自分の本当の気持ちに気付き、セナを無事連れ戻した。
世間にも、自分の心にもセナへの気持ちをオープンした彼のセナへの愛は止まらない。
初恋を実らせたセナと、初めて人を愛した信長ちゃん達二人は、不器用だけど確かに愛を育み合っているのが分かって微笑ましい。
仕事や私たちスタッフには相変わらず血も涙もないけれど、セナにだけ見せる笑顔や優しさは、悔しいけど私では引き出せなかったものだわ。