第16章 クランクアップ
信長の車は、外車で黒の大きなSUV車。はっきり言って、こんな車が急ブレーキで路肩に止まれば嫌でも目立つ。
なのに.....
「ん、........ん、............はっ、待って.....んぅ!」
容赦なく舌を絡め取られ、呼吸が奪われて行く。
「ひ、人が見てる.........んんっ........」
ちゅ、にゅる、ちゅっと、彼は訴えを聞いてくれない。
「あ、......のぶっ、んっ、ん........やめっ、」
悔しいけど、彼のキスは気持ちが良くて、抵抗すればするほど深まる舌先の刺激から逃げる事は不可能で、
「はぁ、......んっ、ん、」
どんどん力が抜けて、ふわふわと身体が蕩け出した。
信長のキスは本当に甘くて危険だ......
彼の服を掴み抵抗していた手がだらんと下に落ちた時、ちゅっと、音を立てて唇が離れた。
「キスシーンがあるとは聞いてなかったぞ」
予期せぬ言葉が彼の口から漏れた。
「はぁ.....はぁ....キスって?何の話?」
ぼーっとする頭を何とか働かせたいけど、今の今キスして人の力を奪っておいて、一体何の事を言っているのか分からなかった。
「映画の撮影だ、キスシーンがあるとは聞いてなかったぞ」
「えっ?だって聞かれてないし、別に言うことじゃないと思ってたから...」
恋愛ものの映画でキスシーンのない映画なんてあるのだろうか?
「俺には人前でキスは禁止だと言っておいて、あいつとしたのが許せん」
「はっ?あれは映画ですよ?撮影なのに無理言わないでください」
嫉妬するとこそこ?あなた、芸プロの社長ですよね?
それに、信長なんて、私の目の前で女の人とキスしてたじゃん!
「煩い!他の男にその唇を許すとは許せん!他の男と触れ合う様な映画やドラマには出るな!貸せっ!消毒してやる!」
「消毒って、義元さんに失礼.........んんんっ!!!」
「そいつの名前を出すな!腹立たしい」
「はぁ?....んっ、」
このやりとりはその後も何分か続き、翌週の週刊誌に【止まないキス】と言うタイトルをつけられて掲載された。
この記事を見て、車中キスも禁止にしたのは言うまでもないけど、とりあえず、色々とあった私の人生初の映画撮影は、本日無事クランクアップした。