第16章 クランクアップ
ホテルをチェックアウトした私達は、彼の車で私の映画の撮影現場へと向かった。(せっかくのスイートルームは、信長に天国に連れていかれた為堪能できていない)
現場へ着いたら、先ずはみんなに謝らなければいけないし、彼との交際宣言の事とか、マスコミの事とか、色々考える事は山積みだけど、とりあえず、二日ぶりに開いた台本を読んで、セリフを再確認する事を優先した。
「セナ、あと10分ほどで着く」
「はい」
とりあえず、セリフはまだ頭に入ったままで助かった。
後は、ヒロインの心情を思い浮かべてシンクロさせたいけど.......
これが後半になるにつれ、難しくて辛かった事を思い出す。
でも......
「あ、.....」
「どうした?」
「あ、何でもないです...」
今は、ヒロインの気持ちが驚くほどスーと、自分の中に入ってくる。
二日前は、先生と気持ちが通じ合い、幸せな気持ちになって行くヒロインの心とシンクロできなくて苦しかったのに、今は、彼女の気持ちが手に取る様に、自然と私の中に入って来た。
ケイティの言っていた、たくさん恋をしろとはこう言うことなんだ。悲しい気持ちも嬉しい気持ちも、知っているからこそ役に生かせる。信長に恋する喜びも、辛さも、悲しみも全てが、私を通してこのヒロインの中に生かされていく。
「セナ」
ヒロインの心とシンクロ出来て感動し、台本を顔に押し当てて泣く私の手を、信長は指を絡める様に繋いでくれた。
その手を私も握り返す。
手を繋ぐだけでこんなにも心が温かくなって嬉しくなるなんて、信長に会わなければ分からなかった。
あなたが教えてくれた事は、決して楽しいことばかりではないけど、確かに私を成長させ、幸せにしてくれてる。
(ありがとう。大好き)
言葉にしてしまうと、また凄いキスをされそうだから、彼の肩に頭を寄せて気持ちを心の中で伝えた。