第13章 観覧車
平日の昼過ぎとあって、遊園地は空いていた。
目指す場所は観覧車乗り場。
『と、とりあえず、デートしませんか?今日撮影した所に観覧車があって、その観覧車にカップルで乗って一番上に来た時に、その....ジンクスが....』
顔を赤くしながらセナが言っていた。
聞いてやればよかった。
こんな風に追いかけて来るのではなく、一緒に手を繋いで来てやればよかった。
観覧車乗り場までやって来ると、見慣れたライトブルーのワンピースの後ろ姿。
仕上がったスーツを取りに行った店先で、偶然目に入ったあのワンピース。
太陽のようなセナによく似合うと思って、俺が贈った物だ。
女に何かを贈ったことなどない俺が、初めて購入した女物の服と靴。
「ふっ、とっくに心奪われてたのは俺の方か....」
受け取れないと困った顔で社長室に入ってきたセナを無理矢理説き伏せて着替えさせた。
『着替えました』
社長室の隣の部屋のドアに隠れながら着替えたと言うセナに心が擽られて、気づけば抱きしめてた。
その後も、セナに会う度、抱きしめて口付けたくて.......自分でも止められない思いに戸惑ったのを、覚えている。
頭に浮かぶのはいつもセナの事。
セナを手放す事はもう出来ない。
「セナ!」
1人で観覧車に乗り込もうとするセナの名前を叫ぶけど声が届かない。
慌てて階段を駆け上がり自分も乗り込もうとすると、係員がチケットを見せろと言ってくる。
「邪魔をするな、チケット代だ、釣りはいらん」
観覧車代がどれほどかは知らんが、とりあえず一万円札を渡してセナが乗り込んだ観覧車に乗り込んだ。