第11章 最後の夜
『彼、最後だけは優しく抱いてくれるの。綺麗に、関係を切るためにね』
「.............っ」
これが...........、最後のサイン?
目の前が真っ暗になり絶望感が襲ったけど、同時に少しほっとしている自分がいた。
もう、いつ捨てられるかとビクビクしなくてもいい。
麗美さんの言う、抱かれる回数が三回以上を過ぎてからは、いつも抱かれるたびに不安だったから........
もう、不安な夜を過ごす事はなくなるんだ。
それなら、
「好きです。.........社長が好き」
こんなに誰かを好きになる事はきっとない。
だから、最後だから、今夜はたくさん好きだと言ってもいいよね。
「っ、........それ以上言うなら優しくは出来んぞ」
熱を孕んだ彼の目が冷たく光った。
「......好きです」
優しくなんて、してくれなくていい。
これで最後だから。苦しくても、今夜はあなたをちゃんと感じたい。
「好き............」
ぎゅっと社長の首に腕を巻きつけると、その腕はあっけなく彼に解かれ、ベッドに押さえつけられ、噛み付かれるようなキスをされた。
そこからはもう、いつもの流れだった。
激しく軋むベットの音と、私の喘ぎ声、
そして、
「セナ.......」
私の名を呼ぶ掠れた声が、静かな部屋に響いた。
ただ一つだけいつもと違っていた事がある。
彼はその日、私を抱きしめて眠る事はなく、行為が終わると黙って部屋を出て行った。
「っ、.........ふっ.......うっ...........」
..........心が痛い。
行かないでと言えば、彼は行かないでくれた?
側にいてほしいと言っていたら、今夜も抱きしめて眠ってくれた?
そもそも、好きだと言わなければ、まだ一緒にいられたの?
どうすれば正解で、何をすれば良かったのかなんて全然分からない。
少しでも近付きたいと思った彼はまるで幻の様に、でも私の身体に彼の熱だけを残して、部屋からいなくなった。