第10章 壊れた関係
朝、目を覚ますと彼はやはりいない。
一体いつこの部屋を出ているんだろう?目が覚めた時、彼が横たわっていたはずの場所に触れるけど、彼がいた温もりはもう感じられない。
それでも、行為の後の彼は本当に優しく抱きしめてくれるから。愛されているような、大切にされているような錯覚に陥ってしまうし、あの瞬間をもっと感じていたいと思ってしまう。
そんな事を考える私はもう、壊れ始めてるのかもしれない。
「さ、起きよう」
怠い体を起こしてシャワーを浴びて、撮影現場へと向かった。
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映画、【せんせいとわたし】は、恋を知らない平凡な女子高生が新しく赴任してきた先生にある日一目惚れをしてしまう所から始まる。
過去のトラウマに囚われ、世間体を気にして生徒を拒む教師に対し、そんなことはお構い無しにどんどんアプローチしていく女性徒。
色んな困難を乗り越えて、最後は結ばれるハッピーエンドなお話だ。
義元さんは、この役が私に合ってると思って推薦したのだと言ってくれた。
私自身もこの役にずっと自分を重ねて来た。
社長に一目惚れをした自分、社長が好きで少しでも近づきたいと思った自分を........
ただ、物語と私たちの関係は正反対の方向に向かっていて、その事が私の心を少しずつ軋ませていた。
次のシーンは、思いが通じ合い、先生と抱き合うシーン
でもまた、あの痕を見られたらどうしようと思うと、体に力が入って上手く出来ない。
「セナテメェ、やる気あんのかぁ!!」
案の定、監督の檄が飛ぶ。
「すみません。義元さんも、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。いつも通りでいいから」
優しく微笑む義元さんの顔がもう見れない。
「はいでは、テイク2、よーい...........」
カチッとガチンコの音が鳴った。
「先生!」
教師と生徒ゆえの、様々な試練を乗り越え、二人の思いが通じ合った大切な抱擁シーン。
「待たせてごめん.....................っ、.....」
義元さんの言葉が止まった。
本来ならここで、義元さんが「大好きだよ」と言うはずなのに..........
まさか........
ドキンッドキンッ、と心臓が飛び出しそうなほど煩くなっていく......