第1章 ネットニュースの人
脚を撫でられたり顎クイされたりと、彼が私に会いに来た目的を聞き出すのに随分と時間がかかったし、心臓が爆発しそうな思いをさせられてしまった。
「織田プロに入れって事ですか?」
あの、有名タレントや俳優がたくさん所属してる?
「そうだ、やっと話が通じたな」
「それは、スカウトって事?」
「そうだな、スカウトだ。俺は貴様が欲しい。春海セナ、俺のもとへ来い」
彼は私の目の前に片手を差し出し、それはそれは綺麗な顔で不敵に笑って言った。
織田信長は、女癖が悪く冷たい人間だと世間は言うし、私もそうだと思っている。でも、彼は私の目標であり憧れの人でもある。そんな人がいきなり私の目の前に現れて、仕事としてだけど、私が欲しいと、俺の元へ来いと言ってきた。
はっきり言って、舞い上がってしまった。
この綺麗な顔と言葉に私はすっかり絆されてしまっていて、もう一種の催眠術にかけられた様なものだった。
「っ、私に出来るとは思えないけど、でも何かやりがいを見つけたかったので、もしこの雑誌に本当に合格したら、その時は行っていいですか?」
差し出された彼の手に自分の手を重ね握手をした。
今思えば、あの時の私は本当に子供で、怖いもの知らずで、そしてとても勢いがあったんだと思う。
「交渉成立だな」
ニヤリと口角を上げた彼は、握手をしている私の手を引き寄せ、チュッと私の手の甲にキスをした。
「なっ、な、なっ...........」
びっくりして慌てて手を振り払おうとしたけど、その手は力強く握られていてできなかった。
「ふっ、その初々しさ、次会う時まで残しておけ」
そう言って彼は、私の手を離した。
「今日は契約書を持っておらん、これで仮契約成立とする」
いきなりの手の甲へのキスに赤くなり固まる私をそのままベンチに残し、彼はそこから去っていった。
まるで一瞬の出来事の様だったけど、私の膝には雑誌Bbが乗っていて、今起きたことが現実だったのだと思わせてくれた。
そして半年後、私はBbの専属モデルに合格し、
【Bb新モデルに異例の新人起用】
と言う見出しで、人生二度目のネットニュースの人となった。
春海セナ18歳。
この時の私はまだ、身を焦がすほどの恋が自分を待ち受けているとは思いもしなかった。