第1章 私は、花魁
「大丈夫だから…もう夜も遅いわ。
鬼が出る前に、早く部屋へお戻り」
「…はい」
力なく返事をすると
二人は部屋へ戻って行った。
這いつくばって、
やっとの思いで自分の部屋へ戻った。
深呼吸をすると、全身が痛む。
自然と呼吸は浅くなっていた。
「はぁ…はぁ…」
今までのことを旦那さんに言えば、
あの男はこの女郎屋に二度と来られなくなるだろう。
でも、ここに来なくなるだけで
別の女の子をまた獲物にする。
こんな思いをするのは
私だけで十分だ。
ふいに、鏡に映った自分と目が合う。
赤く腫れた両頬。
首にもあいつの手形がついている。
柔らかい月明かりには似合わない、
醜い顔だった。