第10章 進む
焦凍は極自然に楓風の手を取り、恋人繋ぎをして歩き出した。
楓風は一瞬、なぜこんなに馴れているのだろう、と疑問に思ったものの、
小さい頃からサラッとこういうことをしてしまっていた事を思いだして、何とも思わなくなった。
(お互い恋愛慣れしてるわけじゃないのに、何でこんなに差があるの…)
と負けている気がして悔しさを感じながら、手をギュッと握り返した。
『そういえば…なんかさっきからずっと視線を感じない?』
「…そうだな
体育祭で注目されてるんだろ」
「楓風ちゃん、生で見るともっと可愛いんだね~」
「轟くん、かっこよすぎ…!!」
「あの二人って付き合ってるんでしょ?お似合いだよね~!!」
とすれちがう人は口々に感想を述べたり、カメラをむけたりする。
『…なんか有名人みたいだね、恥ずかしいな
って何で焦凍怒ってるの…』
「楓風のこと見るヤツが多すぎる」
『なに言ってるの焦凍もだよ!!
女の子達にキャーキャー言われてる…。』
「…嫉妬か」
と何時ものようにいちゃいちゃをしながら、病院についた。
焦凍の母の病室の前に立つと、
二人に、緊張が走る。
焦凍は、手が震えていた。
(…そうだよね。
ずっと…自分の存在が玲さんを傷付けるからって、言って会えなかったんだよね。)
楓風は焦凍の顔をチラッと見ると、
頑張れ、というように
手をギュッと握って微笑みかけた。
そしてふぅ…と息を吐くと、焦凍はドアをゆっくりと開けて病室に入り、
「お母さん」
と声をかけた。
窓を見ていた玲がゆっくりとこちらを振り向き、
驚いたような顔をした。
「焦凍…!?楓風ちゃん…??」
焦凍は、母とは10年近く会っていなかった。
それは、未だ父と自分に囚われているため、自分の存在が追い詰めてしまう。
母を思っての判断だったのだ。
(…今さら、と姉さんに言われた。
そう思われても仕方ねぇ
…でも、これからまた全力でヒーローを目指すためには、会って
たくさん話をしないと
たとえ望まれていなくても、救いだす
それが俺のスタートラインだと
そう、思ったからだ)
玲は焦凍に、火傷のことを泣いて謝ったが、焦凍はそれを笑って許し、今までのことや楓風とのことをたくさん話して、かつての小さい頃のように笑い合った。