第10章 進む
気を利かせて一度外に出ていた楓風が戻って来た。
『玲さん、お久しぶりです』
「楓風ちゃん…元気そうでよかった」
『玲さんもです!
もう焦凍とは大丈夫そうですね、良かった…本当に』
そういって、楓風は嬉しさから涙を流した。
「楓風ちゃんにもずっと気を使わせてたわよね…
ごめんなさい」
と謝る玲に、楓風は慌てて顔を上げて下さい、と言った。
『…大好きな二人なのに何も出来なくて、ずっと悔しかったんです。
でも、また二人が笑い合えるようになって…何だか自分のことみたいに嬉しいです』
と言うと、玲さんは笑いかけてくれた。
「…楓風、もしかしてお母さんと会ってたのか??」
『うん、実はね
玲さんが入院してからずっと定期的に通ってたの。
でも高校なってからは初めて来たよ』
「楓風ちゃん、少しでも元気になる様にって焦凍の代わりに来てくれてね…。
それで救われてたの」
楓風なりに気を使い、焦凍には言わずに来ていたため、焦凍は今気付いたのだった。
「そうか…
楓風、本当にありがとな」
そういって微笑む焦凍は、
かつて見たことないほど柔らかく優しい雰囲気になっていた。
楓風はそれが嬉しくて、また涙を流した。
* * *
しばらく話続けると、玲さんは
今日はもう早くデートに行ってきなさいと言ってくれて、
病院を出るとちょうどお昼時だった。
近くで昼食を食べることにして、
また手を繋いで歩きだした。
心なしか朝よりも足取りが軽い気がするのだった。
「何か食べたいものあるか?」
『…そば!!
あったかくないやつ、ね』
「…甘いものの方がいいんじゃ…」
『それは今度で!!
…またすぐ、デートするよね?』
「…あぁ。そうだな」
(俺のスタートは、ここからだ。)