第1章 スタートライン
走りながらまた楓風は、悶々と考えていた。
負けず嫌いで、人一倍に努力してきた自信がある。
だからこそ、それを「才能だ」とか「元から出来る人はいいな」とか
努力してない人から言われるのが許せない。
悪気があって言ってるのではないと、それは良く分かっている。
それでもそれだけはなぜか譲れなくて、言われる度にイライラしてしまう。
(あれ、もう駅だ…)
丁度来た電車に乗り込んで、やっと一息ついた。
気分はまだ落ち込み気味だが、雄英に受かったのだから元気出してもっと個性を磨かないと、と意気込んだ。
中学の最寄り駅から2駅で自宅の最寄り駅に着く。
本当は地元にも中学があるのだが、ある事情があってわざわざ離れた私立中学に通っているのだ。
一度家に帰ってから買い物に行くのは気が引けるため、そのまま向かうことにした楓風は、
スクバからスマホを取り出してイヤフォンを付け、最近流行りのバンドのプレイリストを適当に選んでポケットに入れた。
スーパーの前まで来たとき、楓風は早く帰って来てしまったことを後悔した。
前からこちらに向かってくる女子の集団。
絶対に忘れたくても忘れられない存在。
顔が一気に青ざめる。早く逃げ出したいのに、足は地面に縫い付けられたように動かない。
指先が小刻みに震えていて、自分の情けなさに腹が立った。
「あれ?もしかしてぇ」
背筋がぞわぞわと震えた。
嫌な予感しかしない。早くいなくなりたいのに。
なんで私の足は言うことを聞かないのだろう。
「成瀬さんじゃなぁい?」
まとわりつくような甘い声に目眩がしてくる。
「久しぶりだねっ!!」
周りからは、懐かしい友達との再開にしかみえないのだろう。
でもそんなものでは断じてない。
…あぁ、頭が回らない。
いつも貼り付けてきた笑顔もこういうときに限って取れてしまう。
はやく、はやく、何か解決策は…
「成瀬さんってば別の中学行っちゃうから、ずっと会えなくて寂しかったんだよ??」
「うちらの大事な遊び相手いなくなっちゃってぇ、困ってたんだからぁ」
『…っ…。』
「おい、無視してんじゃねぇよ」
何も言い返せないまま、楓風は目眩が酷くなってそのまま後ろへ倒れた。
しかし、寸前に後ろから誰かが支えてくれたことで無事だった。