第2章 後編
私の忘れていた記憶。
忘れたくて、無くしてしまいたくて、無くした
8ヶ月の記憶……。
去年の春――。
私は大手会社「カプセルコーポレーション」に入社した。
入社式で壇上に立ったトランクスを見たときは余りの若さに驚いた。
それから、いろいろなことがあって……初夏のころ、私たちは恋人同士となった。
……幸せだった。
私はトランクスの事を愛していたし、彼もそう思ってくれていたはず。
社内の風紀上、内緒にしていた私たちの関係。
それが最悪な形でバレてしまったのは、秋……。
私たちの関係は、まずゴシップ誌に取り上げられ、その頃大きな事件の無かったテレビのワイドショーの格好の餌食となった。
私たちは四六時中ヒマな記者に囲まれ、二人で合う時間は自然と無くなっていった。
そんな中、私は、社内の執拗ないじめにも耐えなければならなかった。
女子社員に人気のあったトランクス。その彼と内緒で付き合っていた私を皆は許さなかった。
それでも、会社を辞めずに自分なりに頑張っていた私。
……彼が好きだったから。
会う機会がほとんど無くなっていたからこそ、……少しでも彼から離れたくなかった。
その反動か、私は家で頻繁に嘔吐するようになっていた。食欲もほとんど無かった。
その姿を見た両親は、私が会社を続ける事に反対した。
……そして、冬。
ずっと前から会う約束をしていた、クリスマスイブ。
だが、彼は現れなかった。
気になって掛けた電話先から聞こえてきたのは、いつもとは違う低い声。
「ごめん。もう会えない」
短くて遠い、一言。
……涙は、出なかった。