第9章 新規海兵育成記
《ボルサリーノside》
わっしも疑問は抱いていた。背丈は一般海兵よりも大きいものの、これといって特出した強さというものが見受けられないからである
ゼファー教官は元大将という事もありその実力はお墨付きだが、彼の事はかの伝説の海兵、ガープ中将が推薦して補佐官に置いた事くらいしか話は耳にしていない。訓練中でも教える事は上手かったが、彼の実力は分からなかった
そこで、同時期に入隊してわっしと同じ部屋のサカズキが疑問を口にした。もしガープ中将からのただの補佐官としての能力だけを買われたなら、即刻教官として下がってもらいゼファー教官から教わりたいと
わっしもそれには賛成で、態々体術と剣術両方出来るゼファー教官以外の弱い教官から教わる事など、強くなりたいわっしらには無い。サカズキにはサカズキの、わっしにはわっしなりの強くなりたい理由がある。寄り道なんてしてる時間はない
……そう、思っていたのに
「終わりでいいか?補佐官の仕事がまだ残っている」
「……っ」
今、わっしとサカズキは地に伏せていた。訓練場に来て、二人の息の合い具合を見たいからと二人がかりで来る事を認められたわっしら。舐めてるのか、サカズキとの意見は合致し目を合わせた瞬間教官に攻撃を仕掛ける
その一瞬だった。たった、一瞬。瞬きをした瞬間目の前には手があって、地面に押し付けられると同時にサカズキは遠くの方まで蹴り飛びされて、今は駆け寄った同期に肩を持って抱えられているのが見える
「教える技術は素人同然なのは認めよう。だが、俺はお前達より実戦や鍛錬を重ねてきた身。戦闘すらど素人な人間に大事な未来ある新兵を任せる事も出来まいて」
実力差を身体に叩き込まれ、わっしはただただ唖然として教官を見上げた。太陽が真上にある中、逆光で彼の表情は見えない。それでも、薄らと見えた赤い瞳に力が抜けるのがわかる
「人間舐めて掛かると痛い目にあうのは道理だ、不意打ちという言葉があるようにな。隠し球があるかもしれないと、ある程度考えて戦え」
お前たちの戦いは無謀過ぎると言われ、先程の戦いを思い返した。二人で左右を挟んで、蹴りと拳を振るったはず。足の長い彼の蹴りがサカズキに当たるのはわかるとして、どうして彼の腕より長いわっしの蹴りが当たらず彼の掌に掴まれたのか