第6章 親友
《ロジャーside》
心臓が、跳ねた。ドクンと嫌な音を立てて。嫌な予感がしてクマラを見た時、そいつは敵兵の剣をもろに受けて首筋から血を大量に流していたのだ
気付けば俺はガープとの戦闘そっちのけでクマラを助けに行っていた。海兵の頭を切り落として、返り血を浴びたままクマラの手を握り自分の方へと抱き寄せた
その時の感覚はまだ鮮明に覚えている。ヌルりと血で滑る手と手は上手く握れなくて、赤く染まるクマラと俺に頭の中が真っ白になった。クマラの口から溢れる血を、身体を真っ赤に染めるのを見て俺は「死なないでくれ」としか言えなかったんだ。あれが……世にいう絶望、なんだと思う
初めて感じたそれと共に、クマラが死ぬ寸前の傷を負っているのが受け入れられなくて俺は近付いてきたガープとの戦いに夢中になった。戦えるかも聞かず、ただ自分と同じ部屋で寝て生還しただけで強いと確信した過去の俺にもどこか怒りが湧いていて
気が付けば、レイリーが撤退の合図を出していると報告が来ていた。でもまだ気持ちの整理がつかないでいたら、その報告者は致命傷を負ったはずのクマラで
困惑しつつも、生きているという実感をクマラに抱き上げられて感じた。ガープがクマラに絡むのを見てまたムカムカして、撤退したあとの今もまだ少しだけムカムカしている自分がいる
「ロジャー、怪我は?」
「俺は返り血だけだ。……お前こそ、大丈夫なのか」
俺の目の前には、苦しそうに死にかけていたクマラが立っている。幽霊か、幻覚かと最初は思ったがちゃんと温もりはあるし、みんなにも見えてる。嘘ではない
ただ少し不安が残る俺は、するりとクマラの左手へと自分の右手を伸ばし、指先から絡めて握ってみる。温かくて、少し男らしくゴツゴツとした鍛えられた手。左手でもその手に触れ、なぞり、なにかぞわりと身体を駆け巡ったのと同時に俺はクマラを抱き寄せていた
「……生きてて、良かった」
「俺は死なない」
今は特に死ねないな、なんて言いつつ俺の額に右手を添えたクマラに、あぁそうしてくれと見事な金髪に顔を埋める。……あんなにも苦しいのは初めてだ。こんなにも切ないのは初めてだ。こんなにも手離したくない──
──愛しい気持ちは……初めてだ