第1章 episode1
私は容姿がコンプレックスだ。
生まれる前に亡くなった祖父の父からの隔世遺伝と言われた
白すぎる肌、大きく透けるような薄い茶色の瞳。
そして、髪は母譲りの細いディープグレー。
容姿端麗。眉目秀麗。
そんな欲しくもない言葉は大人から幾度となく吐かれたプレゼント。
これらは私にとって勇気や自信といった武器にはならず、枷となり苦しめた。
両親ともに華やかな世界で仕事をしており
兄と私はよくそんな二人の小道具としてあちこちに連れ出された。
そんなとき、事件は起こった。
私の誘拐未遂。
犯人はすぐに捕まった。父の友人だった。
小学1年生の私はあの日、両親共通の友人の結婚式で
兄と共にフラワーガール・リングボーイを任されていた。
任を全うし、2人で両親の席に戻ろうと会場脇の廊下を
走っているところを捕まった。
会場はみな、檀上の新郎新婦にくぎ付け。
前を走っていた兄は気づかず、口を押えられた私は声を出すこともできなかった。
会場の空き部屋に連れていかれた私は
この時初めて大人の、男性の、荒い息遣いを聞いた。
可愛い。綺麗だ。君は僕の天使だ。君には僕の愛に応える義務がある。
まるで呪文のように歪んだ愛情を私に唱える。
私はあの時、本当に呪いにかけられたのかもしれない。
もしあの瞬間、清掃員が入ってこなければ…
今思い返すだけで背筋が凍る。
そう、私は偶然に救われた。
未遂で終わったその事件は、私だけでなく家族も苦しめる結果となった。
家から笑い声が消え、母の怒鳴り声やすすり泣く声が聞こえてくるようになり
父は私を見るたびに、悲しい顔をして謝るようになった。
兄に変化があったのも、この頃からだった。