第6章 幸せの記憶 【ジャミル・バイパー】
□幸せの記憶
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「ジャミルさんの誕生日プレゼントですか。」
本日の日付は9月15日。
密かに想いを寄せている
ジャミル先輩の誕生日の3日後。
私は恐らくこの手の相談を
1番持ちかけてはならない人物の前に
拳を握りしめオドオドと立っていた。
「マ、マドルも…アイデアも何も無くて。」
「ふむ。つまり何かを等価に
彼の誕生日の贈り物を用意したい。
………そういうことで良いですか?」
この品よくニヤリと笑う顔。
アズール・アーシェングロットという男は
この笑顔のまま、
【綺麗な上辺を掲げエグい等価を頂戴する男。】
そんなことは馬鹿と評判の私でも百も承知だ。
「他の手が、思いつかなくて。」
「彼に直接望みを聞けば良いでしょう。
それに、日にちが随分過ぎていますが…。」
彼の誕生日は確かに3日前。
私が今更になってプレゼントを
用意しようとしているのには訳があった。
「…コレ…。」
その原因の歪な鉱石を私が差し出すと、
アズール先輩はソレを受け取ってから
品定めするように掲げ光に当てた。
「……ふむ、ゴミですね。」
「………ゴッ!?
…いや、はい。そうですよね。」
確かにゴミなのかもしれない。
価値は1マドルもつかないであろう
赤色の歪なこの物体は9月12日、
詰まるところ誕生日の当日に、
ジャミル先輩の元へお嫁に行く予定だったんだ。