第65章 *勃発エマージェンシー*
カリム『さっきネージュのリハを見た後のヴィルの顔を見て、嫌な予感がしたんだ。ホリデー中に暴走した時のジャミルと、よく似た顔をしてたから』
ヴィル『..ルーク。あんた、なんで飲もうとしたの?気づいてたんでしょう。あれを飲めば、ただじゃすまないってこと..』
ルーク『信じたかったからさ。誰よりもひたむきに努力し、高みを目指していた君を。君が自らの美を汚すような、愚かな真似はしないと
だが同時に、もし君があの林檎ジュースに呪いを込めていたとしたら、味わってみたかった。狂おしい程美への執着のこもった、毒の果実の味をね』
そう語るルークの瞳や声は、自分を殺すようなことを言っているにも関わらず、どこまでも穏やかにヴィルを見つめていた
カリム『なに言ってんだよ、ルーク!そんなの、そんなの絶対ダメだ!』
ヴィル『...』
カリム『なあ、ヴィル。自分がどれだけ馬鹿な真似をしようとしたか、分かってんのか!?オレたち以外の全員がジャガイモに見えるくらい、スゲーパフォーマンスで世界一になるんだって言ってたじゃんか!
それなのに、なんで..』
カリムの悲痛な叫びが廊下に響き渡る。毒を盛ることの恐ろしさ、盛られることの恐ろしさを一番よく知っているカリムの言葉は、この場の誰よりも重みがあった
ヴィルはそんなカリムの叫びを聞いて、乾いた笑いで力なく呟いた
ヴィル『は..あはは..そんなの..アタシが1番聞きたいわよ..でもね、アタシ、分かってしまったの
"もう絶対に勝てない"ってことが!!
だから、アタシ..アタシは、アタシは、ネージュをこの手で!』
ヴィルの思いに呼応するように、床のジュースが再びブクブクと泡を立てながらその激しさを増していく
グリム『ふな"っ!?なんだ!?床にこぼれたジュースがまた動き出した!?ど、どんどん床に広がっていくんだゾ!』
ジュースの泡立ちから、まるで障気のような毒々しい煙が辺り一面に漂い始める
カリム『なんだこの煙!?い、息が..苦し..っげほっ、げほっ!』
ルーク『ユウくん、兎の君、カリムくん、吸い込んではいけない!ヴィルのユニーク魔法は、美しき華の毒!物体に呪いを付与することができる。この霧は呪われた液体が気化したものだ。吸い込めばたちまち身動きがとれなくなってしまう』