第106章 *熱中ベイキング(トレイの夢)*
ユウ『って言ってるとこ悪いんですけど、その前に追いつかれるのが先かもしれませんよぉぉ!?』
ユウの悲鳴に近い叫びに振り向くと、傾斜のせいか闇エーデュースの速度がジワジワと上がっていき、このままでは全員ぺしゃんこの下敷きになるのが目に見えていた
レオナ『ちっ。王者の咆哮で軽い足止めくらいはしてやる。さっさとその場所に案内しろ!』
シルバー『すまない、レオナ先輩。みんなもう少し頑張ってくれ!』
一方、キッチンでは残されたトレイを更なる夢の底に堕とそうと、闇リドルたちが甘い誘惑の言葉をかけていた
一度はその誘惑に呑まれかけたトレイだったが、覚醒の兆しを経たことでその誘惑の言葉の中に現実との矛盾を感じ始めていた
リドル?『この学園まではお母様の目も届かない。必要栄養素なんか知ったことか!いくらだって食べられる。君が作ってくれたものなら!』
短い手が伸びケーキのホールをわし掴むと、まるでやんちゃな子供のようにムシャムシャと貪り始めた
リドル?『みふぇ!ふぉぁ!こんらにおいひいケーキふぉがゔぁんでぎるふぁずがないぉ!』
ケイト?『そうらお!おれもトフェイくんのつふるケーキふぉいふき。おもいもろがきふぁいれも、おいひくてどんどんたべられふぁう!』
次々と作ったものを平らげていく姿を見れば、また夢に堕ちるはず。そんな闇の思惑とは裏腹に、空間は歪み続けトレイの意識は覚醒へと進んでいく
トレイ『やめろ..違う!お前たちは、そんなことはしない..!』
ケイト?『なんで?いっぱい食べるオレたちを見てるのが一番嬉しいって、トレイくん言ってたじゃん』
トレイ『ふ、はは..もし俺がそう言っても..お前らはそんなになるまで食べるはずがない。ケイトは甘いものが嫌いだし、リドルは1日の栄養摂取量は必ず守る..っ!』
ズキリとした痛みに顔が歪む。そんなトレイの脳裏に、現実のなんでもない日のパーティーで、リドルたちが楽しそうに笑い合いながら、自分の作ったケーキを美味しそうに食べる記憶の断片が蘇る
決して、目の前の闇のような醜く貪ることはしない。それを思い出したトレイの目には、軽蔑と敵視の光が灯る
トレイ『ああ..お前たち、なんてひどい食べ方だ!見てるこっちの気分が悪くなる!』