第91章 *内密コール*
それから80年の月日が経ち、リリアは再び揺籃の塔で眠るマレウスの元へと訪れていた
思い出を見ているレイラたちには、場面が切り替わったとしか見えないが、移り変わるごとにリリアの纏う覇気や魔力が少しずつ落ちていっているのを感じていた
黒鱗城・揺籃の塔
リリア『そうそう、最近新しい魔法を覚えたんだ。この歳になってだぜ?人生何が起こるかわからないよな。ほんの少しだけ物の記憶を再生できるんだけどよ..この魔法、案外くだらない記憶ばっかり見せやがるんだ。肝心な情報だけをより分けられるほど上手くはできてないらしい。でも、今まで以上に調査が捗るのは確かだ。次の旅では今度こそ、お前を孵す方法が見つかるかもしれねぇ』
話しかける卵に反応がないのを少し悲しげに見つめると、少し重くなった腰をゆっくりと上げ立ち上がる
リリア『それじゃあ、俺はもう行く。じゃあな、マレウス』
フワ..フワ..
背を向けるリリアに卵の内部が淡く光る。そして言葉とも分からないほんの小さな囁きが彼の耳を掠める
それはまるで、行かないでくれとせがむ小さな子供のように
リリア『..ん?お前、今何か言ったか?いや、卵が喋るわけないだろ..何言ってんだ俺は。疲れてんのか?』
幻聴が聞こえてきたのだと思い、自嘲的な笑みでそっと頭を振った。しかし卵はやはりどこか寂しげにしているように見え、更にこれまでの旅で自分の体にも疲れが溜まってきている自覚もあったため、上げた腰を再び降ろした
リリア『..でも、そうだな。少しだけ、疲れたのかもしれない。だからもうちょっと..ここで休憩していくとするか』
そんなリリアの背後で、卵の中の光が少し嬉しそうにその灯りを何度も点滅させていた
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それから何年も、何十年もかけ、リリアは世界各地を巡り、マレウスの孵化に関する情報を探して回った
妖精への偏見は少なくはなったものの、全てがなくなりはしない。それでも辺境の地へ赴き寒さに彷徨ったときには、種族関係なく温かく迎え入れられ、リリアは時代の変化を感じながら、人間への印象が大きく変わり始めていた