第89章 *暗闇アストレイ*
シルバー『セベク..す、すまない。体が勝手に..』
セベク『それほどの強さを持ちながら..愛されていなかっただと!?憎まれていただと!?
僕を..リリア様を馬鹿にするのも大概にしろ!』
シルバー『えっ..?』
セベク『憎き仇の子だというなら、何も与えず、何も教えず、愚鈍な臆病者に育て、小間使いにでもすればいい。だが貴様はどうだ?孤立無援でも希望を棄てることなく立ち上がった。王のご乱心にも臆さず意見した。絶望の暗闇の中にあっても、戦い続けた!
貴様をこれほど強い男に育てたのは誰だ?
リリア様だろうがぁっ..!!!』
シルバー『..あ..』
その言葉に、なぜ闇に呑まれ消えてしまいたいと願っていた自分が、今の今まで闇に抗いながら進んでいたのかを理解した
リリアに幼い頃から教えられてきた"生き残る"ことが、シルバーをこの時まで戦わせていたのだと
セベク『何故わからない?何故疑う?お前はとっくに知っているはずだ。お前の持つ強さを、リリア様の愛と呼ぶなんと呼ぶのだ!僕の、僕たちの師匠を二度と愚弄するな、シルバー!うっ..ううう..!』
ジワジワと込み上げる涙を止めることができず、セベクはその場で膝をつき泣き崩れた。そんな彼の姿を見下ろしながら、シルバーは自分を生かしてきたことの全てが、リリアからの教えであったこと、そしてそれが何を表すのかをやっと真に理解できた
シルバー『..そうだ。暗闇の中でも、ずっと聞こえていた。立て、諦めるな、生きろ、と..親父殿の声が。全部幻だと思っていたけれど..今、やっと分かった。あの教えこそ、親父殿が俺を愛してくれた証。夢でも幻でもない..真実だ』
濁りきった瞳にオーロラの輝きが戻り、全身に熱が回る。"生きる"ことをもう一度始めたシルバーの顔には、もうあの沈んだ影はなくなっていた