第89章 *暗闇アストレイ*
離れないから、と体をより密着させ、伝わってくる冷え切った肌を温めるようにひたすら身を寄せる
『一人にさせない..』
シルバー『...なんで、俺なんかに』
『好きだから。シルバーさんのことが好きだから。それ以外ないよ』
優しく慈しみに満ちた声に、ほんの僅かに彼の心が揺れ動いたその時
?『...立て..』
シルバー『この声は..』
闇の奥、姿は見えないが何度も聞いたその声に俯くシルバーの顔がゆるゆると上がる
?『立ち上がるのだ』
シルバー『おやじ、どの..?』
リリア『敵に背を向けて逃げても構わぬ。掟破りの卑怯な手を使っても構わぬ。ただ一つ、生きることを諦めるな。
ーー立て!シルバー!己の足で!』
鼓舞するような力強い言葉がシルバーを鼓動を揺らす。今のシルバーにとって、リリアからの言葉は辛く悲しいが、それでも胸に響き自身を立ち上がらせるには十分だった
シルバー『..うぐ..うう..!うわあああ!!!』
足に力を込め全身を震わせながら立ち上がる。警棒を振るい周りの闇を断ち切ると、幾分か周りの濃度が薄まったような気がした
シルバー『はぁ、はぁ..』
リリア『見事じゃ、シルバー。それでこそ..』
言葉は最後まで紡がれることはなく、声の気配は闇の奥へと消えていった
シルバー『この声も、俺が都合よく作り出した幻なのか..?俺は、どうしたらいい..?』
『..シルバーさん』
そっと指先でシルバーの手に触れる。あの時とは違い払われることはなく、そのまま手を包み込む
『大丈夫。シルバーさんのこと、絶対に一人にさせない。闇の中にずっといるなら、私もずっとここに残ってる。1人より2人のほうが..寂しくないよ』