第89章 *暗闇アストレイ*
〔No side〕
子供『ととー!ととー!』
リリア『ここじゃ、シルバー。珍しいな、お主がそんな大声を出して』
闇を払いながら進む二人の前に、また森の小屋の景色が広がり、そこには幼い少年のシルバーがリリアを呼びながら探し回っていた
家の裏から姿を見せたリリアに気づくと、パアッと笑みをこぼしながら一目散に駆け寄っていく
子供『とと!見て、これ!』
ずいっと差し出した小さな両手には、どんぐりで作られたブレスレットが乗せられ、暖かな日差しに照らされキラキラと輝いていた
シルバー『!!』
それはリリアの荷物整理を手伝っていたとき見つけた、美しい装飾の缶箱の中に大事に仕舞われていたブレスレットだった
リリア『おぉ、これは立派などんぐりの腕輪じゃ。大きくて、形が揃っていて、ツヤツヤで..さてはお主、どんぐり拾いの天才か?』
子供『ふふふ。リスたちと一緒に集めたんだ。キツツキも、糸を通すのを手伝ってくれて..
これ、ととにあげる』
リリア『わしに?』
子供『あのね、どんぐりのお守りを持ってると、元気で長生きできるんだって。樫の木の妖精たちが教えてくれたんだ。とと、ずーっと元気でいて。
それで、ずーーーっと一緒にいようね』
無邪気な笑顔はまるで太陽のように眩しく、リリアの夜の心を焦がすような、熱い何かを込み上げさせる
リリア『..わしの長寿を祈ってくれるのか。人間であるお主が..』
妖精と人間。価値観も寿命の長さも全く違うのにも関わらず、自分より長く生きるリリアの長寿を祈るという、シルバーの無知で無垢な姿におかしさを感じながらも、リリアにとっては何よりも尊く嬉しいことだった