第89章 *暗闇アストレイ*
つかず離れずの距離で歩いていると、目の前が光に包まれ、再びあの森の奥の家が目の前に現れる
シルバー『ここは..また、森の家の風景..もう、見たくない..どうしてこんな..』
『..行こ』
立ち止まりその場から動かないその手を取り、家の窓へと連れて行き中を覗くと、少し大きくなったシルバーがリリアが離乳食を与えてもらっていた。傍らにはマレウスが静かに見守っていた
リリア『ほれ、シルバー。あーんじゃ、あーん』
赤ん坊『あー..んぐ、んぐ..』
リリア『乳の次は、くたくたに煮詰めた穀類や野菜だけ。本当にこれでちゃんと育つのか?』
マレウス『人間の育て方の本にそう書いてあったのだろう。妖精である僕らが余計なことはしない方がいい』
リリア『でもお主は幼体の頃から、骨付き肉やら魚やらを山ほど食べておったし..』
マレウス『僕はドラゴンだぞ。か弱い人間と一緒にするな』
リリア『腹が減ったら泣き、腹いっぱいになったら寝る。赤ん坊はドラゴンも人間も似たようなもんじゃ』
マレウス『..はぁ』
最後のひと口を食べ終わり、空になった皿とスプーンをテーブルに置くと、シルバーの口の周りについた食べかすを優しく布で拭った
リリア『おお、ぺろっと一皿平らげた。うまかったか、シルバー?』
赤ん坊『うぶ。あぅあー』
リリア『よしよし、いい子じゃ。たくさん食べて、寝て、大きく育てよ。しかし毎日同じ味ばかりでは飽きてしまわんか?次はもう少しアレンジして..
栄養がつくと言われているヨロイネズミの肉や、黒イモリの粉もスープに混ぜてやるべきじゃろうか』
マレウス『...それはやめておけ。城から定期的に赤子用の食料を運ばせよう。お前だけに任せておくのは、少々不安だ』
リリア『ほう。人間を嫌っていたお前が..どういう心境の変化じゃ?』
マレウス『この赤子が弱れば、お前が悲しむ。違うのか?』
リリア『..お前は優しいな、マレウス』