第89章 *暗闇アストレイ*
『っ、待って、シルバーさん』
シルバー『一人にしてくれ..』
先を進んでいくシルバーを小走りで追いかける。自分の知らない過去の情景から逃げるように闇の奥深くへと進むシルバーの目には段々と輝きが失せていく
『はぁ..はぁ..待って..』
マレウス『リリア。シルバーをどこで拾ってきたんだ?』
『!ツノ太郎..?』
闇の中から聞こえてきたマレウスの声に二人の足が止まる。見回しても闇しかない空間に、声だけの過去の出来事が広がっていく
リリア『闇夜の森の奥じゃ。散歩をしていたら偶然見つけてのう』
マレウス『闇夜の森には魔獣や肉食獣がうろついている。どうしてそんなところにわざわざ..?』
リリア『本当にたまたまじゃよ。見捨ててはおけんじゃろう』
マレウス『お前が育てずとも、人間の国に預けてしまえばよかったものを』
リリア『..お主の父、レヴァーンがよく言っていた。"我々妖精はもっと人間を知り、妖精のことも人間に知ってもらわねばならない"と。人間にも通じる共通語を率先して学び、わしらに教えたのもレヴァーンだった』
マレウス『...』
リリア『わしはシルバーを通して、もっと人間のことを学びたい。そして..知りたい。
わしが本当に、心から人間を愛せるかどうかを』
マレウス『もし、愛せなかったらどうする?』
リリア『..そう結論を急ぐな。時間はまだまだある』
『ね、リィさんはシルバーさんを、人間を愛そうと頑張ってるんだよ。あの答えって今のシルバーさんに繋がるんじゃない?』
シルバー『...』
『リィさんはもうシルバーさんを、人間を恨んでないよ...きっと』
シルバー『..だからこそ、俺はもうあの人に会う資格がないんだ』
ズブズブズブ...
『!!闇..!』
足元から湧き出た闇が感情の出どころであるシルバーを狙い襲いかかる
『(今のシルバーさんじゃ、闇にすぐ取り込まれちゃう!!)』
すぐに助けに入ろうと駆け出すが、シルバーはペンを警棒へと変えてあっさり闇を追い払った
『ぇ..』
シルバー『..なぜ..?いや、もういい..』
何故闇を払ったのか。自分でも分からない行動に疑問が浮かぶが、諦めたように顔を俯かせまた一人歩き出した
『...』