第89章 *暗闇アストレイ*
暫し歩いていると再び光に包まれ、今度は森の奥にある可愛らしい小さな家が現れた
『ここ、は..』
シルバー『この家は..この景色は、俺と親父殿が過ごした、森の家だ』
『可愛いお家..』
リリア『眠れや 眠れ 愛し子よ お前が どうか 夢の中 導く 光へと 歩むように』
家から聞こえてきたのは、あの野ばら城でマレノアが歌っていた子守唄。中から響く声は優しく愛に溢れた少し低い男の声だった。家の中からだというのに、その声はまるで目の前にいるかのようにハッキリとしていた
シルバー『この歌は..昔、親父殿がよく歌ってくれた子守唄..』
『お家の中に、リィさんがいる。シルバーさんも一緒』
よく磨かれた窓を覗き込むと、椅子に腰掛けながら腕に抱えたシルバーを子守唄であやすリリアの姿があった
目の前の穏やかな光景を見守るレイラたちの横を大きな影が通り過ぎ、軽いノックをして家の中へと入っていく。特徴的な2本の角、まだ少し幼さの残る顔立ちをしたマレウスだった
マレウス『リリア、入るぞ』
『ツノ太郎..』
シルバー『!!マレウス様..!?』
マレウス『お前がどこかから人間の赤子を拾ってきたと、森の妖精たちが噂していたが..』
リリア『しーーっ。今ちょうど寝たところなんじゃ、静かに』
口元に指を添えながら小声で注意され口をつぐむ。だがその腕に抱かれる赤ん坊のシルバーを見て怪訝そうに顔をしかめた
マレウス『..なんだ。その裸の猿のような生き物は』
リリア『噂の赤子じゃよ。名をシルバーという。どうじゃ、愛らしいじゃろ?』
マレウス『愛らしい?これが..?』
ほぼ初めて見る人間の赤子に興味はあるものの、愛らしいという感情は全く芽生えず、ただ理解ができずに首を傾げる
リリア『ちょうど良いところに来た。わしはちょっくら買い物に行ってくる。少しの間、シルバーを見ていてくれ』
マレウス『は?これを?僕が!?』
リリア『人間の赤ん坊は、妖精と違って花の蜜では育たんらしい。粉ミルクなるものを飲ませろと本に書いてあってな。乳なのに粉とは..どんなものか想像もつかないんじゃが。この辺じゃ手に入らんから、人間用の品が売っている店まで行ってくる』