第89章 *暗闇アストレイ*
赤ん坊『う..?あぅ?』
シルバー『ぇ..』
『ぁ..髪..』
陽の光のような金色の髪が突然、照らす月光を吸い込んだかのようにみるみるうちに銀へと染まっていく
リリア『おや?髪の色が金から銀に..もしかすると、夜明けの騎士の陽の光のように輝く髪は、昼の眷属の祝福によるものであったのかもしれんな。お前の髪はわし(夜の眷属)の祝福で月の光を灯したようじゃ』
すっかり月の色に染まった銀髪を優しく撫でつけながら優しく微笑む。その瞳には憎悪は見られず、ただただ赤ん坊への慈愛で満ちていた
リリア『ちょうど良い。金色の髪をした人間は、茨の谷ではちと目立つ』
そう言いながら抱きしめあやし続けていると、やがて落ち着いてきたのか、赤ん坊は段々降りてくる瞼をパチパチと眠そうに瞬かせる
リリア『くふふ、久しぶりに泣いて疲れたか?お主、名前は..ううむ、揺り籠にも指輪にも、どこにも記されておらんようじゃ。ふぅむ..月の光..銀色..よし、決めたぞ。
シルバー、今日からお主は、シルバーじゃ。闇夜を照らす月。その銀の光が、お前の道行きを照らすであろう』
もっと月の光を浴びせるように赤ん坊を高く掲げる。窓からの月光が優しく二人を包み、ツタまみれの廃れた城内も、この美しい光景を引き立たせるかのようだった
指輪の輝きが消え、目の前が再び闇の世界へと戻っていく
『....』
シルバー『信じられない..じゃあ、俺の実の両親は..夜明けの騎士とレイア女王、なのか?
そんな..どうして..どうして、こんな真実を、俺に..ううっ..』
ぶり返す悲しみにシルバーの肩が震える。堪えるように二の腕を強く握るその手を、小さな手が優しく触れる
『シルバーさん..泣かないで。大丈夫だよ』
シルバー『レイラ..俺は、もう....っ!』
『ぁ、待って!』
振り切るように歩き出したシルバーを追いかけ、その背中に続いて歩き出す。歩くスピードの速さに何度も置いていかれそうになるが、必死に小走りで追いかけ続けた