第89章 *暗闇アストレイ*
城の中には一人の女性と、彼女の周りを赤と青と緑の妖精が忙しなく飛び回る。傍らにはあの揺り籠があり、ちらちらと小さな手が見え隠れする
赤色の妖精『ああ、敵がもうすぐそこまで迫っています。夜明けの騎士と謳われた王配殿下も亡き今、城の陥落は目前でしょう。剣の国はもはやここまで..
レイア女王様、早くお逃げになって!王子様は私たちが守りますわ』
青色の妖精『さあ、王子様。あなたは悲しい戦いが終わるまで、しばらくの間可愛い眠りにつくのです』
緑色の妖精『大丈夫。この指輪は私たちの魔法の力を強めてくれる。魔法が解けるまでずっと、この愛らしい姿のまま幸せな夢を見ていられるわ。10年でも、100年でも..』
青色の妖精『そう、そして..王子様を心から愛してくれる人が現れた時..この魔法は解けて、眠りから覚めるの』
赤色の妖精『ええ、きっと。戦いのない、平和な世界で..』
願いの魔法が光の粒となり赤ん坊に注がれる。そこでユニーク魔法の効果が切れ、景色は茨のツタまみれの城内へと戻る
リリア『..そうか。両親と守護妖精たちが、滅びの炎からお前を守ったのだな。国が潰えたその日からずっと、揺り籠の中で本当に愛してくれる人を待ち続けていたのか。しかし時が経ち、守護妖精たちの魔法も綻びたのだろう』
何百年もの間、赤ん坊を守っていた揺り籠を労るように撫でる。だが突然その手が止まり、穏やかな瞳がじわじわと鋭さを帯びる
赤ん坊『ほぁああん!あぁああん!』
リリア『..夜明けの騎士の子..レヴァーンと、マレノアの仇..
いっそここで..この手で..!』
光を失った赤い瞳が仄暗さを纏い、その手がゆっくりと殺意と憎悪をもって赤ん坊の首へと伸びていく
シルバー『..っ!』
『っ!!だ、だめっ!!リィさんだめ!!』
殺される
身の毛がよだつ来たる光景を止めようと駆けだそうとする。だが、その手は赤ん坊の首ではなく小さな丸い頭へと優しく乗せられた