第88章 *緊急リターニング*
野ばら城・回廊
包んでいた光が晴れ、重力に従って降り立つとそこは城内の回廊だった。石造りの床や壁に等間隔で灯された黄緑色の炎の松明がぼんやりと照らし、どこかディアソムニア寮の廊下を彷彿とさせた
降り立つ瞬間、体への負荷が一気に走り、ようやく引き始めたと思った傷の痛みが再びリリアを襲う
リリア『ぐっ..ちくしょう。転移魔法はやっぱり傷に響くな』
『大丈夫?(治せてあげられなかった..)』
リリア『お前に心配されるまでもない』
気にすんなと頭に手を置いて軽く叩いていると、目の前の大きな扉の向こうから女性の歌声が聞こえてきた
?『"あたたかな ゆりかご 星の光 喜びよ"』
セベク『ん..歌?』
?『いまも 見つめた ひとみ ともにいよう おそれず 夢から覚めても』
シルバー『!!この子守歌は..』
?『眠れや 眠れ 愛し子よ お前が どうか 夢の中 導く 光へと 歩むように..』
美しく揺れるようなアルト。優しく愛に満ちてそれでいてどこか誘うように引き込む蠱惑的な歌声が紡ぐ子守唄が心地よく耳を撫でる
先程の聞き苦しいヘンリクの声を消し去るような安心感のある歌声に、レイラは耳を傾けて聴き惚れていた
『..綺麗な歌。この声、凄く好き』
ユウ『うん。綺麗で、とても優しい声だよね』
リリア『..まったく。歌なんか歌ってる場合か。こっちの気も知らねぇで。行くぞ、お前たち!』
歌声の正体を知るリリアは呆れた様子でため息をつくと、表情を引き締め先陣を切り目の前の扉に手をかけた