第87章 *懐刀インパクト*
腰に手をあてムッとした顔で怒るグリムに、ユウはその通りだと言わんばかりに頷いた
ユウ『出会ってそこまで経ってない僕らの言葉は信じられないでしょうけど、これだけは覚えておいてください。
ーー僕らは決して、貴方達の敵ではありません』
バウル『...』
真っ直ぐな瞳に射抜かれ無言のまま視線を落とす。ふと床についた血の跡を見つけ、腕を斬りつけた時のレイラの顔が脳裏に浮かぶ
恐怖に怯え、体を震わせて助けを求める声が、まるで鎖となって心臓に巻き付き、締め付けるような痛みを与えてきた
バウル『..私の考えは変わらん。あいつは危険な存在で、他者を操る力があるのは確実だ』
ユウ『ーーっ、だから、』
バウル『だが、お前たちとのやり取りを見ている限りではただの子供だ。悪意などは全く見えない。
それでも私はあいつを疑い続ける』
セベク『な、何故ですか!?』
バウル『ーー私は、やつが未知数な存在であるのが恐ろしいのだ。何も分からない、何を考えているのかも..やつは説明がつかない事だらけなのだ』
揺らぐ瞳は怯えたようにも見えて、ユウたちは初めて彼が"憎んで"いるのではなく"怖がっている"のだと気づいた
ユウ『ーー言いたいことは分かりました。ですが、僕は今回のことを許すつもりはありません。例えあの子が許しても。
部屋に戻ります。目が覚めたときに誰かがいないと泣いてしまうので』
吐き捨てるように言うと、シルバーたちの腕を静かにほどいて、レイラの眠る部屋へと入っていった
ーーーーーーーーーーーーーーーー
『ん...』
目が覚めたレイラの目に飛び込んできたのは、隣で眠るユウの寝顔だった
ふわりと香ってきた匂いを辿ると、硬い床で体を傷めないように置いてくれたのか、シルバーの上着が敷かれ、体の上にはユウの上着がかけられていた
『(優しい匂い..)』
二人の上着を手繰り寄せてスンと嗅ぎながら、寝起きで回りが遅い頭で眠る前の事をじんわりと思い出していく
バウルに疑われ命を狙われた。ぶり返してきた恐怖に上着を強く握り、目の前で眠るユウへ体を寄せる