第87章 *懐刀インパクト*
悲鳴を上げながら鉄の者たちは我先にと元来た道を逃げ返していった
リリア『ちっ、逃げ足の早い』
バウル『風鳴き渓谷周辺にたむろしている銀の梟どもに合流されると厄介ですね』
リリア『ああ、早いところ奴らを追うぞ!
レイラ、あいつらがどっちに逃げてったか探れ!』
『ん、分かった』
リリア『全員足を止めて口を閉じろ』
リリアの一言で全員が口を閉じ歩みを止めると、レイラは目を閉じて集中し始める
すると遠くの方で慌てた足取りで地を蹴る音と、鎧の擦れる音を聞き取り、その方角をゆるりと指差した
『あっち』
リリア『よし、急ぐぞテメーら!』
レイラの指し示した方を走っていくと、段々と周りが明るくなり、ついに開けた砂利道へと辿り着いた
その瞬間、今まで森の中にいたおかげで遮られていた、山々の隙間から通り抜けてきた強烈な風が一団を襲う
あまりにも強い向かい風に一歩を踏み出すのにも苦労しそうだった
ビュゥゥゥゥゥ...!!
グリム『ふな〜〜っ!すげー風なんだゾ。オレ様吹き飛ばされちまいそうだ! 』
ユウ『ゔ〜っ..グリムは重いから大丈夫じゃない?にしても、唸り声みたいな風の音だな』
『ぅぅ..飛ばされそ』
シルバー『っ、レイラ、俺の手を取れ』
差し出された手を取ると、包めるほどの大きな手がしっかりと掴んで歩行を助けてくれた
リリア『狭い岩の間を雷鳴山脈から吹き下ろす強い風が通り抜けてんだ』
セベク『うぐっ..歩くのも一苦労だな』
リリア『この風がある限り、投石や矢での攻撃はまず見当違いの方へ飛んでいっちまう。魔法はその限りじゃないがな。妖精にとってこの渓谷は自然の要塞だ』
『ぅ..でもやっぱり風強...』
ガガガ..ガガガ..ブゥゥゥゥン..
『ぇ..なに、この音』
ユウ『どうしたの?』
『なんか..変な音が聞こえるの』
この自然に覆われた道に似つかわしくない重厚な機械音が届き、聞き慣れない音に背筋がゾクッと震える
『っ、リィさん!なにか、分かんないけど、重くて大きいのが来る!』
リリア『!なに..?』