第3章 とけていく
お腹を抱えて大爆笑するひまりを夾が睨むが、笑いが収まる様子はない。
「その顔で凄んでも怖くないもんねー」
挑発するように舌を出し、また笑い続けるひまりの両方の頬をつねって反撃してみる。
「笑うんじゃねぇ!!!」
だが、顔が近付いたことで更に笑いを誘ったらしくひまりの目には涙が溜まっていた。
「待って、オッケー。笑わない。もう笑わないよ」
ひまりは目を閉じて深く深呼吸すると、ゆっくりと長い睫毛を持ち上げる。
「ぶっっ。無理ゴメン…っ。面白すぎてっ…」
「おまえ…覚えてろよ…」
夾は頬をつねっていた手を離すと「飯食うぞ」と軽く後頭部をはたいて立ち上がる。
ひまりは由希と紫呉を待たせていたことを思い出しハッとして自分も立ち上がった。
背を向けたままドアを開けようとしない夾に、ちょっとからかい過ぎたかも…と不安になり呼び掛けようと肩に手を置く直前に夾が口を開く。
「お前…春のこと、好きなのか?」
ひまりは思いもよらなかった質問に目をパチパチさせている。
「え、なんで急にそうなったの?」
肩に触れようとして行き場を失った右手をスッと引っ込めて、訳の分からない質問に質問で返す。
「なんとなくだよ。別に意味なんかねぇけど」
夾がひまりの方に振り返ると、顔を辛そうに歪めて視線を下に向けた。
なんだよその表情…やっぱ好きなんじゃねぇか。
夾はズキンと心臓が痛くなった気がして、心の中で舌打ちをした。
「まあ、もしそうだったら間、取り持ってやるから言えよ」
そう言うと、ひまりは下を向いたまま急に両手で顔を覆った。
な、泣いてる?!と焦り出した夾がアタフタとし始め、とりあえず謝ろうと近寄ると
「まってゴメン。全く話が入ってこない…っ。その顔でこっち見ないで。笑っちゃう…っ」
手で顔を覆ったままのひまりの肩が小刻みに揺れていた。
「ひまり、お前…マジで覚悟しろよ」
ひまりからペンを奪い取ると、彼女の眉毛を繋げる。
すると、落ち着いていた喧嘩という名のジャレ合いがまた始まった。
由希と紫呉は、ギャーギャーと聞こえる騒ぎ声に呆れた顔をして、先に食事を始めていた。