第10章 声に出さないまま
「hey!!サンタクロース!!!」
「hey Siriみたいに言ってんじゃねーよ」
机に右頬をつけ、両手共コタツの中に収納しているひまり。
ジャージ姿の夾は「それに俺はサンタじゃねえ」と居間を出て行く。
冬休みに入っても体が怠けないようにとジョギングに行くらしい。
このクソ寒い中、そんなうっすいジャージで外行くとかあり得ないとひまりは顔を顰め、コタツの中で冷たい手を擦り合わせた。
「サンタさんに何かお願いしたいの?」
同じくコタツに入っている由希がダラけモードのひまりに問いかける。
「全室床暖房…」
「うん、それはサンタさんの手には余るね。リフォーム業者の仕事だね」
ニッコリ笑う由希は彼女が軽く舌打ちをしていたことには気付かぬフリをして、机に置かれた籠からミカンをひとつ手に取った。
慣れた様子で剥いたミカンの皮は綺麗な花弁型になっており、そこから丁寧に白い筋を取っていく。
その几帳面さが由希っぽいなぁと眺めていた。
視線を感じた由希が剥き終わったひとつを「食べる?」の意を込めて机に突っ伏したままの彼女の前に差し出す。
ひまりは上半身を起こさずに口を開ける。
食わせろ、の意だ。
口に放り込んでやるとヘニャリと笑って咀嚼し始める姿にクスッと笑った由希は、二個目を放り込んでやる。
今度は「あまいー」と感想を述べて幸せそうに目尻を下げていた。
「あーやだやだ。うちの子達ったら折角のクリスマスなのに、ジョギングやら、ミカンにコタツってー」
「そういう紫呉だって篭りっきりでしょ」
書斎から出てきた紫呉の言葉に、上半身を起こしたひまりが口を尖らせる。
そう、今日はクリスマス。
街に出れば煌びやかな装飾に彩られ、恋人達がキャッキャ、ウフフと胸躍らせるあのクリスマス。
紫呉宅では、夕食はカーネルオジサンのフライドチキンでも頼む予定ではあるが、それ以外にはなんの予定も組み込まれていない。
確かに寂しいよなー…と由希は考えていたが、クリスマスは何処へ行っても人が多い。
物の怪憑きにとって人混みは命取りになり得る。
「でも何か夕方に春と紅葉が来るって言ってたような」
ガラッ
ひまりの言葉を遮るように、勢いよく開かれた玄関ドアの音に「え?もう来たの?」と全員で玄関方面に視線をやった。